用語解説
ペプチドーム解析
これまでのプロテオーム解析により、特殊なタンパク質断片(ペプチド)のプロファイル(種類と量)が、健常者と患者、疾患の種類と病期で異なることが明らかにされてきました。プロテアーゼは全遺伝子産物の~2%を占め、生命活動と、健康の維持や病気の治癒に重要な役割を果たしています。そのプロテアーゼが産生するペプチドームは、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームに続く標的オームとして新しく登場し、その役割の解析結果に期待が集ります。
バイオマーカー
私たちは、血中あるいは組織中のタンパク質が疾患特異的プロテアーゼ(疾患プロテアーゼ)群により分解されて産生するタンパク質断片(ペプチド)の中から、健常者と患者、疾患の重症度、及び医薬品による治療前後で、その量が変化する一群のペプチド(バイオマーカーペプチド)を見出しました。これらのペプチドは、様々な疾患で特徴的に増減することから、疾患の有無や進行度の判断、レスポンダーを選別するコンパニオン診断薬さらに医薬品の治療効果や副作用の判定などバイオマーカーとして広範囲な利用が期待されます。
現在のBLOTCHIP®-MS法によるバイオマーカーペプチドの開発は早期診断を目的に、感染症、がん、循環器疾患、免疫炎症性疾患、精神疾患、呼吸器疾患、体外受精領域で探索と同定が進み、一部で大規模検証成績が得られています。
コンパニオン診断薬
かつてFDAは医薬品企業に対して大型新薬の上市確率を画期的に向上させるために、バイオマーカーを利用した臨床試験を実施するよう指針を公表しました。この指針には、予めレスポンダーを選別し、少ない症例数で短期間に審査基準をクリアーできる臨床成績(高い有効率と低い有害事象率)の獲得に狙いがありました。このレスポンダーの選定に使用されるバイオマーカーがコンパニオン診断薬と呼ばれるものです。その後診断薬が治療薬と同等に重視される個別化医療の時代に入り、その結果医薬品の承認申請を行なう際には、同時期に当該コンパニオン診断薬の承認申請も行なう同時開発戦略が採用されつつあります。
ペプチドのコンパニオン診断薬への活用
膠原病マウス組織の抽出液から、BLOTCHIP®-MS法により疾患群で有意に増加するペプチドPDA088が発見されました。構造解析の結果、PDA088は創傷治癒作用を持つタンパク質(Wound Healing Protein: WHP)の断片と判明し、膠原病治療薬の投与により、PDA088の産生が低下し、それとともに臨床症状が緩和されました。これは膠原病の諸病態の中でWHPの分解(=PDA088の産生)に関与する病理反応が治療薬により抑制され、WHPの創傷治癒機能が保全された結果と推察されます。本邦においても「コンパニオン診断薬等及び関連する医薬品の承認申請に係る留意事項について」(平成25年7月1日薬食審査発0701第10号)が通達され、その中で、「特定の医薬品の用法・用量の最適化又は投与中止の判断を適切に実施するために必要な体外診断用医薬品」として定義され、まさしくPDA088は膠原病治療薬の治療効果や用法・用量の設定に欠かせないコンパニオン診断薬として登場する可能性があります。
選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring;SRM)法
質量分析計を用いる選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring;SRM)法では、大腸がんのリスクマーカーに対して、同じアミノ酸配列を持ち、かつ質量数の異なる安定同位体分子(内部標準品)を検体に添加した後に、高速液体クロマトグラフィー(LC)による分離を行います。続いてタンデム質量分析(MS/MS)により、フラグメントイオンと内部標準品の正確な分子量位置を決定します。最後に、内部標準品の濃度からリスクマーカーの濃度を高い精度で算出します。複数個のリスクマーカーを一回のSRM法で測定でき、抗体を必要としない次世代型の検査法です。